HOME > 探偵物語@  

言われなき崩壊 〜好きになったから〜

午後7時過ぎ宇都宮市街地から国道4号線に向かって時速60kmで走っていた横松正則(28才)の運転するトヨタマークUは突然右折すると速度を20kmに落とした。
場所は宇都宮簗瀬町の一角、ケバケバしいネオンの輝く通称「ヤナゼモーテル街」その一軒に車は吸い込まれていった。
先週の同じ曜日に入った「ホテル」ではなかった。助手席の「女」は先週の時と同じ人物。「女」は車庫の目隠しカーテンを慣れた手つきで素早く引いた。

30分後にクライアント(依頼者)である妻の好江さんに打ち合わせ通りに電話を入れた。25分程して現場に立ち合った好江さんは夫の車を横目で一瞥すると、正則のケイタイに電話を入れた。
「あなた!そこに誰と居るのョ何やってんのョ・・・」
好江さんの軽自動車には4才になったばかりだという一人娘が助手席で首を窓際にもたれるようにして、あどけなく眠っていた。

翌日、好江さんの指定したファミリーレストラン「デニーズ陽南店」で待ち合わせた。好江さんは子供と二人で待っていた。
目が大きいのは夫似ですと言った。娘は口の廻りをチョコパフェのクリームで汚しながら楽しそうにはしゃいでいた。
今年の5月のゴールデンウィーク家族3人水入らずでささやかな一泊旅行を楽しんだ。
「那須は別荘が多いな〜将来は小ちゃくてもいいから俺たちも別荘を持ちたいな〜ヨシ決めた!」そんな言葉も口にした「楽しい旅行でした」と好江さんはポツリと言った。
あの日が最初にして最後の家族旅行になるのか、私はやりきれない気持ちでいた。
「相手の女性は学生時代の私の友人です。結婚式にも喜んで出席して来てくれたのに・・・絶対に許せない・・・」
夫の素行調査の依頼を受けたとき、夫に対する不信感をどこで感じたのかという問いにも答えてくれなかった。心の痛手の程が今になって分かったような気がしていた。
「・・・いつのことだか・・・おもいだしてごらん・・・あんなこと、こんなこと・・・あったでしょ・・・」娘が幼稚園で覚えたであろう唄を声をだして唄っている。 店員が優しく微笑んで通り過ぎていった。
証拠写真を添付した調査報告書を受け取ると母と娘は店を出た。

一ヵ月後事務所で好江さんの訪問を受けた。離婚の方向で話を進めているとの事で「あの女との関係は一年も前からです。」夫は「好きになったのだからどうしょうもない。わかれてくれ」の一点張りと言う。考えに考え抜いた挙句の決心だと言う。たとえ夫側に「非」があったとは言え「離婚」と言う解決の為の手段が必ずしも女性にとって有利に働くばかりではないと言う現実を説明し、ましてや幼い子供を連れてのこれからの先を思いめぐらすと、ただただ心配でならないが好江さんは覚悟の上だと言う。

立派な弁護士を紹介する事にした。協議離婚と言う話し合いから判決のともなう離婚裁判へと進むかもしれない。この母子のこれからの人生に幸多かれと祈ることしかできないのか。


注:この物語は事実を基にしたフィクションです。尚対象者の了解の上で仮名とし、場所設定も変えてあります。

  探偵物語Aへ